Intraoperative end tidal carbon dioxide concentrations
2009年 05月 31日
ASA newsletter 2009;73:12
近年、陽圧呼吸の弊害が注目されるようになってきた。大きな一回換気量は炎症性サイトカインの放出、気道の浮腫、肺の血管外水分量の増加など肺の炎症を引き起こす。近年の研究で、元々の肺疾患のない患者でもPEEPを併用した少量の換気量での陽圧換気が肺の炎症を抑制することが示唆されるようになった。加えて肺の重量や出血で評価される肺の障害は呼吸回数の減少で抑制される。合わせて考えると、分時換気量の減少は肺の障害を抑制するという面で効果がある。
換気量を減らすことで集中治療で注目されているpermissive hypercapniaの利点を術中の呼吸管理にも応用することができる。というのも現在の手術中の呼吸管理は軽度のhypocapniaで管理されていることが多い。この総説は術中の呼吸管理について言及する。
文献検索では術中のhypocapniaの利点について言及した論文はなかった。考えられるhypocapnianの利点としては筋弛緩薬や鎮静薬の必要量の減少である。しかしその点に関してのエビデンスはない。充分なエビデンスなしに術中の軽度hypocapniaは臨床で使われ続けている。加えて、hypercapniaにより引き起こされる高血圧と頻脈への懸念がある。
KetyとSchmidtらはPaCO2と脳血流量の関係を明らかにした(PETの基礎理論を考えた人)。PaCO2の上昇は、COの増加、ABPの上昇との脳血管の拡張によりCBFを増加させる。Hypocapniaは逆にCOの減少とCBFの減少をもたらす。陽圧呼吸によるCOの減少と合わせて、60年以上にわたり、陽圧呼吸によるhypocapniaはCO,ABPとCBFを減少させることが知られてきた。
麻酔導入後にhyperventilationを 導入してhypocapniaにすると全身の血管拡張と相対的なhypovolemiaが起こり、venous returnの減少からCO,ABPの低下を引き起こす。加えて、hypocapniaはQT間隔の延長や不整脈の要因にもなる。
その他、hypocapniaは肺の微小循環の透過性を亢進、肺のコンプライアンス減少(気管支収縮により)、HPVの抑制による肺のシャント率の増加と酸素解離曲線の左方変位を引き起こす。
術中のhypocapnia(PaCO2=24mmHg)をルーチンの全身麻酔に使用すると、術後数日後の認知機能低下をみとめたという報告がある。Hovorkaは術後の認知機能がhypercapnia(PaCO2=54mmHg)は、normocapniaやhypercapniaにした群よりもよいことを報告している。帝王切開時の短時間のhypocapniaですら胎児に悪影響を与える。
HypocapniaがCBFを減少させることはよく知られている。外傷性脳傷害時の管理でもhyperventilationへの見直しが行われている。
一方、軽度のhypercapniaは多くの利点がある。軽度の呼吸性アシドーシスは臓器保護効果がある。軽度hypercapniaはCOの増加と酸素解離曲線の右方変位により組織の循環と酸素化を改善する。Akcaらは軽度hypocapniaにより上肢の組織酸素分圧の上昇を報告している。酸素分圧の増加はPaCO2が60mmHgで最高だった。組織の酸素分圧は手術時の感染と相関していることから、軽度hypercapniaにより術後の感染率を低下させることが期待される。EtCO2=50mmHgの軽度hypercapniaと吸入酸素濃度80%を結腸切除術中に維持することで、感染率と消化管機能の迅速な改善がみられた。
呼吸不全患者において、permissive hyercapniaによる肺機能の改善効果がいくつか報告されている。呼吸性のアシドーシスは細菌性肺炎、虚血再灌流障害やエンドドキシンにより誘発される肺障害を軽減する可能性がある。
もちろん軽度hypercapniaを避けるべき状況もある。頭蓋内圧亢進患者ではさらに頭蓋内圧を上げる危険がある。Hypercapniaは横隔膜の機能障害や疲労を引き起こす。非脱分極性筋弛緩薬のネオスチグミンによる拮抗を困難にする。興味深いのは、高山に登った際の脳障害の原因は低酸素ではなくhypocapniaによるCBFの減少であるという報告もある。
結論として、EtCO2を30から35mmHgに維持するというドグマにはメリットがない再考するべきである。むしろEtCO2は40付近あるいはそれ以上に維持すべきである。
私見
確かにPaCO2でいうと40mmHgを超えていると何となく落ち着かないのはやはりドグマというべきなのだろうか。適切な範囲はまだ明らかではないもののやや低換気というのがこれからのトレンドになるだろう。