Intraoperative end tidal carbon dioxide concentrations
ASA newsletter 2009;73:12 近年、陽圧呼吸の弊害が注目されるようになってきた。大きな一回換気量は炎症性サイトカインの放出、気道の浮腫、肺の血管外水分量の増加など肺の炎症を引き起こす。近年の研究で、元々の肺疾患のない患者でもPEEPを併用した少量の換気量での陽圧換気が肺の炎症を抑制することが示唆されるようになった。加えて肺の重量や出血で評価される肺の障害は呼吸回数の減少で抑制される。合わせて考えると、分時換気量の減少は肺の障害を抑制するという面で効果がある。 換気量を減らすことで集中治療で注目されているpermissive hypercapniaの利点を術中の呼吸管理にも応用することができる。というのも現在の手術中の呼吸管理は軽度のhypocapniaで管理されていることが多い。この総説は術中の呼吸管理について言及する。 文献検索では術中のhypocapniaの利点について言及した論文はなかった。考えられるhypocapnianの利点としては筋弛緩薬や鎮静薬の必要量の減少である。しかしその点に関してのエビデンスはない。充分なエビデンスなしに術中の軽度hypocapniaは臨床で使われ続けている。加えて、hypercapniaにより引き起こされる高血圧と頻脈への懸念がある。 KetyとSchmidtらはPaCO2と脳血流量の関係を明らかにした(PETの基礎理論を考えた人)。PaCO2の上昇は、COの増加、ABPの上昇との脳血管の拡張によりCBFを増加させる。Hypocapniaは逆にCOの減少とCBFの減少をもたらす。陽圧呼吸によるCOの減少と合わせて、60年以上にわたり、陽圧呼吸によるhypocapniaはCO,ABPとCBFを減少させることが知られてきた。 麻酔導入後にhyperventilationを 導入してhypocapniaにすると全身の血管拡張と相対的なhypovolemiaが起こり、venous returnの減少からCO,ABPの低下を引き起こす。加えて、hypocapniaはQT間隔の延長や不整脈の要因にもなる。 その他、hypocapniaは肺の微小循環の透過性を亢進、肺のコンプライアンス減少(気管支収縮により)、HPVの抑制による肺のシャント率の増加と酸素解離曲線の左方変位を引き起こす。 術中のhypocapnia(PaCO2=24mmHg)をルーチンの全身麻酔に使用すると、術後数日後の認知機能低下をみとめたという報告がある。Hovorkaは術後の認知機能がhypercapnia(PaCO2=54mmHg)は、normocapniaやhypercapniaにした群よりもよいことを報告している。帝王切開時の短時間のhypocapniaですら胎児に悪影響を与える。 HypocapniaがCBFを減少させることはよく知られている。外傷性脳傷害時の管理でもhyperventilationへの見直しが行われている。 一方、軽度のhypercapniaは多くの利点がある。軽度の呼吸性アシドーシスは臓器保護効果がある。軽度hypercapniaはCOの増加と酸素解離曲線の右方変位により組織の循環と酸素化を改善する。Akcaらは軽度hypocapniaにより上肢の組織酸素分圧の上昇を報告している。酸素分圧の増加はPaCO2が60mmHgで最高だった。組織の酸素分圧は手術時の感染と相関していることから、軽度hypercapniaにより術後の感染率を低下させることが期待される。EtCO2=50mmHgの軽度hypercapniaと吸入酸素濃度80%を結腸切除術中に維持することで、感染率と消化管機能の迅速な改善がみられた。 呼吸不全患者において、permissive hyercapniaによる肺機能の改善効果がいくつか報告されている。呼吸性のアシドーシスは細菌性肺炎、虚血再灌流障害やエンドドキシンにより誘発される肺障害を軽減する可能性がある。 もちろん軽度hypercapniaを避けるべき状況もある。頭蓋内圧亢進患者ではさらに頭蓋内圧を上げる危険がある。Hypercapniaは横隔膜の機能障害や疲労を引き起こす。非脱分極性筋弛緩薬のネオスチグミンによる拮抗を困難にする。興味深いのは、高山に登った際の脳障害の原因は低酸素ではなくhypocapniaによるCBFの減少であるという報告もある。 結論として、EtCO2を30から35mmHgに維持するというドグマにはメリットがない再考するべきである。むしろEtCO2は40付近あるいはそれ以上に維持すべきである。 私見 確かにPaCO2でいうと40mmHgを超えていると何となく落ち着かないのはやはりドグマというべきなのだろうか。適切な範囲はまだ明らかではないもののやや低換気というのがこれからのトレンドになるだろう。
by yamorimo
| 2009-05-31 12:45
| 麻酔
|
ファン
リンク
フォロー中のブログ
ふか&もけ S.Y.'s Blog みなと横浜、音楽・オーデ... るなのひとりごと おじさんの自転車通勤 麻酔 しつもんばこ (旧)とりあえず俺と踊ろう ブラックジャックとほりぞん 看護師あかねの日記 医局脱出へのカウントダウン わかて(?)麻酔科医の日記 教育を趣味というしかない... はるみのパリ通信 不不惑 忘我 blog 諸行無常麻酔家日記 てれんこぱれんこ ブログパーツ
カテゴリ
ライフログ
以前の記事
2022年 01月 2021年 12月 2021年 10月 2021年 08月 2021年 05月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2019年 07月 2018年 04月 2018年 03月 2017年 06月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 10月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 最新のトラックバック
検索
その他のジャンル
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||