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新型コロナに対する私見 2021年夏

20201月から始まった新型コロナ。一年半を経過しました。その間、ウィルス自体も武漢発のオリジナルからイギリスで変異したアルファ株、さらにインドで変異したデルタ株と変わり手強い相手になってきました。その一方でワクチン接種が進んで来たことといくつかの治療薬の承認で希望も出てきました。そんな2021年夏の新型コロナの状況について私見を述べてみたいと思います。

現状

まず東京です。東京の感染は東京オリンピックが始まった7月末から急速に増加し、現在は実効再生算数で1.1前後で落ち着いている状況です。実効再生産数はひとりの患者が何人に感染させるかを数字にしたもので1以下にならないと感染者数は減少しません。

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これに対応して人工呼吸器が必要な重症者数も増えています。特に重症者の対応は人工呼吸器の数やマンパワーの問題など限界があります。250名程度でピークに達していますが、これは重症者数が現在増えていないのではなく医療サイドの限界なのかもしれません。


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現在新規陽性者数は5000人で横ばいとなっています。増加するよりはよいのですが1日に5千人ずつ増加するというのはすべての人を自宅療養にするにしてもそのフォローだけでも5千人づつ仕事量が増加する訳ですからその管理ができなくなるのは自明です。

一方では地方では盆休み後から急速に陽性者数が増えてきました。首都圏を中心とした陽性者の多い地域の人が一定数帰省や旅行で地方に移動し感染を拡散させたと考えられます。

オリンピックは無観客とすることで感染の爆発的な増加は防ぐことができたと思いますが、やはり開会式会場周辺に多くの人が集まっていたりしたことや、オリンピックムードが広がる中で感染への警戒感が薄れこのような結果になったのではないでしょうか。さらに都知事や首相からもっと強く帰省や旅行をしないようにというメッセージが出せなかったのかと思います。

一方、陽性者が多い割には死亡者数が増えていません。現在東京での死亡者数は2-6人程度で推移しています。




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時間経過が異なるのですがざっと新規陽性者5千人に対して死亡者5人と考えると死亡率は0.1%になります。以前は1%を超えていましたのでずっと低くなっています。これは高齢者に対するワクチン接種が進みリスクの高い高齢者の感染が少なくなったためと考えられます。病院や高齢者施設でのクラスターの報道も少なくなりました。これがワクチン接種が行われる前に起こったらと思うと最悪の状況は避けられたのではないでしょうか。テレビ報道では現在の陽性者の90%以上がワクチン未接種といわれています。このようなデーターをきちんと示してワクチン接種率を高めていくのが現在求められています。

デルタ株

この様に現在感染が広がったのはデルタ株に置き換わったためと考えられます。

新型コロナは2020年初頭から広がったのがオリジナルの武漢株です。このタイプは原因は分かりませんが日本人を含むアジアでは西洋人と比べて感染率や重症化が少なく日本国内で爆発的な感染が広がりませんでした。しかし、その後イギリスで変異したアルファ株はオリジナルの約1.5倍の感染率であり日本でも今年の春の第4波を引き起こしました。さらに現在のデルタ株はインドで発見され、その後諸外国へ広がりました。デルタ株の感染力はアルファ株のさらに1.5倍とされています。さらにインドから東南アジアといった当初感染があまり広がらなかった地域でも広がっており昨年みられたアジア系の国では感染が広がりにくいという現象はもうみられません。

デルタ株の特徴は体内での増殖のスピードが速いということです。当初は感染の機会があってから発症するまで10日程度必要といわれていました。これが濃厚接触者とされた人が2週間経過観察する根拠となっています。ところがデルタ株ではより早期に発症する傾向があります。また発症の2日前から人に感染させることができますので勝負が早くなりました。例えば東京からグループで沖縄旅行し帰ったら全員感染していたとうことが起こりえます。この場合東京を出発するときには誰かすでに感染していたのかもしれませんし、旅行中に誰か一人が感染すれば全員に伝染してしまいます。

もうひとつの特徴は子供も感染しやすくなったということです。小児ではウィルスが人の細胞に入り込むのに必要なACE受容体が少なく、以前は小児の感染は少ないとされていました。しかし、ウィルスの曝露量がふえたり、少量でも体内に入れば増殖スピードが速くなったためか小児でも感染例がふえてきました。また症状が出ないまま家庭内で親に移してしまう可能性も指摘されています。デルタ株では小児も安全ではなく、以前の20歳台の人のように感染を広げる要因になる可能性もあります。

感染者が放出するウィルス量もおそらく以前よりも多いのでより感染しやすいといえます。マスクの着用はもちろんですが、ソーシャルディスタンスと換気が重要になります。

ワクチンの効果

8/21現在でワクチンを2回接種した人は日本国内で約5000万人でほぼ半分まで来ました。先に述べたようにこのワクチンの効果で国内の感染は最悪の状況を避けることができていると思います。

日本国内で使用されているファイザーやモデルナのワクチンを2回接種すればデルタ株の予防効果は90%とされています。また感染しても重症化が抑制されるのでまずワクチン接種を進めていく必要があります。

報道ではワクチンの副反応についても報道されています。しかし、5000万人もの人が接種すればいろいろな副作用が起こりえます。例えば車を運転して買い物に行く場合でも死亡率はゼロではありません。飛行機でハワイに行くときに死亡率が1/100万とか考えるでしょうか。ワクチン接種もそのように考えてもらえばよいと思います。

現在懸念されているのはワクチンの長期的な効果です。当初90%の予防効果は90日後には80%まで低下すると報告されています。アメリカで始めたように日本でも全員が2回接種したらまたワクチンを接種する必要が出てくるかもしれません。この場合は同じタイプがよいのか別のタイプがよいのかまだ結論が出ていません。とにかく現在はできるだけ多くの人が2回接種するのが優先です。

新しい治療

現在、新型コロナに対しての治療は2種類があります。

ひとつはウィルスの増殖を抑制する薬剤を投与することで、承認されている抗ウィルス薬としてはレムデシビル、未承認で現場で患者の承認後に使用されているのがアビガンとイベルメクチンです。もうひとつは体の過剰な炎症反応を抑制する薬剤です。後者は中等症以上で使用されますので前者についてまとめます。

レムデシビルは静脈内投与する抗ウィルス薬で、入院後に使用されています。アビガンは当初期待されていましたが、治験で有用性が示されなかったために追加の治験中です。イベルメクチンも期待されていますが、現在のところ有用性を明らかにした研究はありません。同じ地域でイベルメクチンを使った国では使わなかった国と比べて感染が抑制されているみたいな治験のレベルです。現在国内で治験が進められていますので有用性が明らかとなれば期待が持てます。やはり自宅療養する患者が内服で使用できる薬が望まれます。

新しい治療薬として期待されているのは抗体カクテル療法(抗体カクテル療法について詳細はこちら)です。これは人工的に作ったウィルスに対する抗体を患者の体内に注射する方法で、ウィルスが人の細胞内に入るのを抑制します。トランプ大統領が昨年コロナ陽性になったときに使用されました。
現在は50歳以上あるいはそれ以下の人でも重症化のリスクがある人が適応となっています。またその作用機序からも発症早期に投与しないと効果なく、発症後7日以内の投与とされています。

その効果が70%抑制という数字が報道されていますが、具体的には軽症の人を対象にして偽薬投与群では入院や死亡のイベント発生率が3.2%であったものが1%に低下した(70%減少)ということです。とすると1000人の軽症者のうち入院が必要になる患者が30人のところが10人に減らすことができる。というレベルの効果です。1000人だと入院が20人、1万人だと200人なので陽性者が多くなった今だと有効性は高そうです。

現在入院あるいは宿泊療養の患者で使用可能ですが、今後は病院の外来でカクテルを注射後に自宅療養という使い方ができるようになれば入院が必要になる患者を減らすことが可能になると考えられます。投与法をもっと柔軟にするのと必要量の確保が重要でしょう。

今のところコロナに対する特効薬はありません。病態によって複数の治療薬を使っていくことで重症化や死亡率を下げていくことが目標になります。個人でも感染のリスクを下げる行動をするとともに、持病の管理や栄養状態に気を付ける。この機会に禁煙するなどリスクを下げる努力が求められます。

日本の医療について

コロナの報道の中でよくいわれるのが日本には人口当たり世界1の病床があるのに何故コロナ病床が増えないのかということです。また医師会が怠慢だという声もよく聞きます。これは現場の医療従事者として非常に残念です。

まず日本医師会ですが、これは基本的には開業医の団体です。従って大きな病院をコントロールすることはできません。さらに医師会は日本医師会の下に都道府県と市町村レベルの3段階があります。実際の活動はこのような地方レベルで行っており、コロナの対応がうまくいっている地区は自治体とその地域の医師会との関係がうまくいっていることが多いです。

次に病院の病床ですが、日本で多いのは慢性期の病床です。一方で急性期病院は基本的に病床稼働率が90%を超えたレベル、つまり余裕のないギリギリの病床数で運用していました。新型コロナの特に中等症以上の患者の治療は急性期病院でないと無理です。しかし、コロナに振り分ける病床を作ることは、他の疾患の治療を縮小せざるを得ないので病院の判断としては難しい対応になります。

また、例えば30ベッドの病棟が10ある300床の病院があるとします。このうちのひとつの病棟をコロナ病床にするとしても、コロナ病床が30確保できる訳ではありません。急性期病院の場合、看護師1人に対して患者7名で対応しています。しかし、コロナ患者の場合は防護着を着てベッドサイドへ行く必要があるので、看護師の数が変わらなければ患者数は通常の半数程度に抑えたいこころです。通常の病室は4人部屋ですが、そこに患者を1人から2人で運用している施設が多いのではないでしょうか。それでも掃除などを含めて看護師の業務は増えてしまいます。また、昨年であれば入院するのはほとんどが軽症から中等症の経過観察+α程度の患者でしたが、現在は酸素投与が必要なより重症の患者が入院適応となっていますのでどこの施設でもコロナ病床を増やすのは難しいと思います。これは飲食店と同じであくまでお願いベースでは限界があります。緊急時ということである程度超法規的に行政サイドから強制的な医療配置をしないとこれ以上の対応は無理であろうと思っています。

またコロナ対応をしていない病院への批判もよくみかけます。しかし、コロナ陽性と患者を顔をみれば分かるわけではありません。例えば発熱患者さんへの対応はコロナ陽性を念頭において対応しますので非常に時間がかかります。またコロナ対応をしている病院が対応が困難となったコロナ以外の患者を受け入れる必要がありますので決して楽をしている訳ではありません。

とはいえ、一年前と比べると病院の対応は進歩しました。当初は外部にお願いしていたPCR検査はほとんどの病院で可能になっています。医療従事者のほとんどが感染症のフル防護着を使ったことがなかったのですが、今ではスムーズに脱着できるようになりました。あとは行政サイドでうまく医療対応のデザインができるのかだと思います。

陽性者の確認。重症度の評価と、在宅、ホテルなど、病院入院の振り分け。在宅患者のフォローと重症化時の対応を行政と医療機関でうまく手分けすれば現状の医療資源でも充分対応可能と考えます。

今後の懸念

今一番心配なのは新学期です。これまで述べたように学校で生徒間で感染が広がり、これが家庭内でさらにひろがるパターンが増える可能性があります。日本の行政制度の欠点として、先を読んで予防的に対応するということができないというのは今回感じている点です。ゴールデンウィークや盆休みで感染が広がるのは充分予想できたのに対応できませんでした。本当に9月に学校開始でよいのか教育関係の方はよく考えていただきたいと思います。

現在の心構え

とはいえもう1-2ヶ月すればワクチン接種率がさらに上がりますので、今回の第5波を乗り切れば生活はかなり元に戻るのではと期待されます。確保しておきたいのは万一に備えて非常食や経口補水液などの確保です。また血液の酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターも確保しておきたいです。

一方発熱を含めて体の具合が悪いときはできるだけ昼間に近くの病院を受診して下さい。よくみかけるのが具合が悪くなっても病院受診を避けていたためにコロナ以外の疾患が重症になってしまった症例です。また検診を避けたために進行した癌の状態で病院を受診される場合もあります。通常の病院受診を避ける必要はありません。

危険な状態ではありますが、先もみえてきました。ワクチン接種だけでも、医療現場の頑張りだけでもいい方向へは向かいません。ひとりひとりの注意が一番大切です。もう一息頑張りましょう。


by yamorimo | 2021-08-22 16:29 | 新型コロナ
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