Reducing transmission of SARS-CoV-2
2020年 05月 29日
Science 27 May 2020
呼吸器感染症は、呼吸、発話、咳、くしゃみの際に感染者から放出されたウイルスを含む飛沫(5〜10μm以上)およびエアロゾル(5μm以下)の感染により起こる。従来の呼吸器感染症対策は、感染者のくしゃみや咳で発生する飛沫による感染を減らすように意図されてきた。しかし、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の感染拡大の多くは、呼吸や会話中に無症状の人から放出されるエアロゾル感染によって発生していると考えられる。エアロゾルは室内に蓄積し、空気中で何時間も感染性を保ち、肺の奥深くまで容易に吸い込まれる。社会生活の再開には、ルーチンでのマスクの着用や、感染した無症状者を特定して隔離するための定期的な検査の普及など、エアロゾル感染を減らすための対策が必須である。
人間は0.1~1000μmの呼吸器らの飛沫を生成する。飛沫の大きさ、慣性、重力、および蒸発の関係により、放出された飛沫とエアロゾルが空気中を移動する距離が決定される。呼吸器からの飛沫は、蒸発するよりも早く重力により落下し、床や物の表面を汚染し、接触感染を引き起こす。より小さなエアロゾル(5μm以下)は、落下するよりも早く蒸発し、気流の影響を受け、より長い距離を移動することができる。このように、呼吸器系ウイルスの感染経路には、接触(人と人との間や汚染された表面との直接または間接的な接触)と空気中の飛沫やエアロゾル吸入という2つの主要な経路がある。
呼吸器の飛沫の大きさは飛散の程度や感染経路だけでなく、病気の重症度にも影響することが示されている。例えば、インフルエンザウイルスは、1μm未満のサイズのエアロゾル中に多く含まれており、これはより重篤な感染症につながる。SARS-CoV-2の場合、1μm未満のウイルスを含むエアロゾルでは咽頭をバイパスして、肺の肺胞領域の深部に直接浸潤する可能性がある。SARS-CoV-2は、SARS-CoV-1の3倍の速さで増殖することが示されており、自然免疫反応が活性化して症状が出る前に咽頭で急速に広がり、そこから排出される。症状が出るまでに、患者は知らず知らずのうちにウイルスを感染させてしまっている。
SARS-CoV-2の感染を抑制するために感染者を特定することは、SARSや他の呼吸器ウイルスに比べて困難である。なぜなら、感染者は症状が発生した時または症状が発生する前にの数日間感染力が強くなるからである。これらの「隠れた攻撃者」が、SARS-CoV-2の感染拡大の重要な要因となる可能性がある。中国の武漢では、おそらく無症状であったと思われる COVID-19 感染の未診断例が、ウイルス感染の最大 79%を占めていたと推定されている。そのため、無症状の感染者を特定して隔離するためには、定期的で広範囲な検査が不可欠である。
2003年のSARS発生時には、空気感染がその役割を果たしていることが確認された。しかし、多くの国では、空気感染が SARS-CoV-2 の感染経路としては認められていない。最近の研究では、飛沫に加えて、SARS-CoV-2 はエアロゾルを介しても感染する可能性があることが示されている。中国の武漢の病院で行われた研究では、患者から 2メートル以上離れた場所のエアロゾルから SARS-CoV-2 が検出され、密集した場所ではより高い濃度が検出された。SARS-CoV-2 の喀痰ウイルス量からの推定では、1 分間の大声での発声で 1000 個以上のウイルスを含むエアロゾルが発生することが示されている。
WHOは、SARS-CoV-2の感染拡大を減らすために社会的距離を6フィート(1.8m)に保ち、手洗いを行うことを推奨していますが、これは1930年代に実施された呼吸器飛沫の研究に基づいている。これらの研究では、咳やくしゃみで発生する100μm程度の大きな飛沫が重力の影響を速やかに受けることが示されている。しかし、この研究が行われた当時は、サブミクロンのエアロゾルを検出する技術は存在していなかった。空気中では、1μmのエアロゾル粒子が12.4時間で地面に落下するのに対し、100μmの飛沫は4.6秒で地面に落下すると予測されている。現在の測定では、激しい咳やくしゃみでは、何千ものエアロゾルを発生させ、6m以上飛散させることがわかっています。SARS-CoV-2に関する証拠が増えていることから、WHOの推奨する6フィート(1.8m)の距離はSARS-CoV-2の感染を減らすことが期待できる(マスクなしでくしゃみをすると無理そう?)。
屋外環境では、濃度や移動距離など多くの要因がエアロゾル中の呼吸器ウイルスが感染性を維持を抑制する。風は感染性の飛沫やエアロゾルを長距離移動させる可能性がある。運動中の無症状の人は、感染性エアロゾルを放出することがある。ウイルス濃度は屋外では急速に希釈されるがSARS-CoV-2の屋外感染に関する研究はほとんど行われていない。さらに、SARS-CoV-2は日光の紫外線によって不活化される可能性があり、周囲の温度やにも影響を受ける。ウイルスは、粉塵や汚染物質などの他の粒子に付着して、分散性を高めることができる。さらに、大気汚染物質の濃度が高い地域に住んでいる人は、COVID-19の重症度が高いことが示されている。呼吸器ウイルスは、人によって吸入される前に、長期間にわたって空気中に存在し続けることができるため、さまざまな屋外環境において、さまざまな条件の下で、時間の経過とともに感染性がどのように低下していくのかを今後検討する必要がある。
感染性飛沫の生成および空気中での動態についてはほとんど知られていないため、社会的距離(ソーシャルディスタンス)の安全な距離を定義することは難しい。インフルエンザウイルスの場合と同様に、SARS-CoV-2ウイルスがサブミクロンのエアロゾルに含まれていると仮定すると、呼気中のタバコの煙がよい比較となる。タバコの臭いがする喫煙者からの距離は、感染性エアロゾルを吸い込む可能性のある周囲の距離を示している。無症状の人がいる密閉された部屋では、感染性エアロゾルの濃度は時間の経過とともに上昇する可能性がある。室内で感染する確率は、吸入したSARS-CoV-2の総量に依存する。換気の頻度(量)、人の数、屋内施設への滞在時間、空気の流れに影響を与える人の動きなどが、ウイルスへの暴露と感染に影響する。これらの理由から、屋内では6フィート(1.8m)離れていても、適切に装着したマスクが重要である。このようなエアロゾル感染は、医療スタッフへの二次感染や介護施設での大規模なアウトブレイクの一因となっている可能性がある。エアロゾルを介した空気感染は、麻疹、SARS、水痘などの他の呼吸器ウイルスについても報告されている。
無症状者によるエアロゾル感染がCOVID-19の世界的な感染拡大の主な要因である可能性があることが明らかになった後、WHOはフェイスマスクの普遍的な使用を推奨している。マスクは重要なバリアとなり、特に無症状の人や症状の軽い人の呼気中に含まれる感染性ウイルスの数を減らすことができる(図を参照)。サージカルマスクの素材は、空気中へ放出されるウイルス濃度を大幅に低下させることで、COVID-19の発症率と重症度を低下させる。マスクはまた、SARS-CoV-2エアロゾルから未感染者を保護する。したがって、医療現場、飛行機、レストラン、その他の換気の悪い密集した場所など、高濃度のウイルスが蓄積する可能性のある条件の場所でマスクを着用することが特に重要である。最近、適切に装着された自家製マスクのエアロゾルフィルタリング効率は、医療用マスクと同様であることが判明した(本当か?)。
疫学的なデータから、COVID-19の蔓延を抑える上で最も効果があった国は、台湾、香港、シンガポール、韓国などでマスク装着を実施している。COVID-19との戦いにおいて、台湾(人口2,400万人、COVID-19の最初の症例は2020年1月21日)は、パンデミックの間、ロックダウンを実施しなかったが、441人の症例と7人の死亡者(2020年5月21日現在)という低い発生率を維持した。対照的に、ニューヨーク州(人口約2,000万人、最初のCOVID症例2020年3月1日)は、症例数(35万3,000人)と死亡者数(2万4,000人)が多かった。台湾政府は、SARS発生後に策定した伝染病対応計画を迅速に発動させることで、1月に中央伝染病対策本部を設置し、感染者やその身近な人を検知・追跡する技術を活用し、最も重要なのは公共の場でのマスク着用を義務付けるなど、SARS-CoV-2の感染拡大を防ぐための一連の積極的な対策を実施した。また、マスクの輸出禁止、国民一人一人がマスクを安価に入手できるシステムの導入、マスクの増産などにより、医療用マスクの確保が図られた。海外ではマスク不足が深刻で、住民の多くが医療用マスクを手に入れることができない状況が続いている。このようなマスクの入手可能性とマスク着用の普及の違いが、COVID-19の症例数の少なさに影響を与えていると考えられる。
ウイルスのエアロゾル感染は、感染性呼吸器疾患の蔓延につながる重要な要因であることを認識しなければならない。症状のない患者では、エアロゾルの大きさが小さいため、肺の奥深くまで浸潤しCOVID-19の重症度が高くなる可能性がある。エアロゾル感染を減らすためには、制御手段を導入することが不可欠である。COVID-19を引き起こすのに必要な最小ウイルス力価、感染前、感染中、感染後の飛沫サイズと空気中での動態、屋内外でのウイルスの生存可能性、感染メカニズム、空気中の濃度など、呼吸器ウイルスの生成およびエアロゾル感染についてのさまざまな要因について国際的なアプローチが必要とされている。また、さまざまなタイプのマスクのフィルタリング効率の研究も必要である。
by yamorimo
| 2020-05-29 11:08
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