麻酔薬の選択②
2013年 12月 01日
Anesth Analg 2013;116:685
乳癌術後の慢性痛は20-50%程度の頻度といわれている。リスクファクターとしては若い人、高身長、高体重、手術のタイプ、癌の部位、リンパ郭清の有無、放射線療法、化学療法、術後の急性痛などである。
その予防は急性痛のコントロールによる中枢神経系の感作を抑制することにある。術前からのマルチモーダルな疼痛コントロールが試みられている。
著者らはレミフェンタニル投与後のhyperalgesiaの発生がセボフルラン>プロポフォールであることに注目し、乳癌手術の麻酔をセボフルランとプロポフォールで術後の慢性痛の発生に差があるかを検討した。
(対象と方法)
プロポフォール群が111例、セボフルラン群が117例。術後痛にはモルヒネのPCAを使用。
麻酔法は過去の自分たちの報告を参照としているが、これはremifentanilをlowとhighの2つのdoseで使っている。highはTCIで4ng/ml、lowは1ng/mlなのでいずれにしても日本では低用量である。
手術の2か月以上後に調査を行い慢性痛の状況を調査。
(結果)
慢性痛の発生頻度はトータルでは56%。セボフルラン群では60%、プロポフォール群では38%でありプロポフォール群で有意に低かった。この他、手や肩の障害を訴える頻度や疼痛のために病院を受診した頻度もセボフルラン群で高かった。
慢性痛のリスク因子としては、若年、腋窩リンパ節郭清、術後24時間のモルヒネ使用量とセボフルランであった。
痛みの程度や期間は両群間で差がなかった。
ということで術後痛に関しては吸入麻酔薬よりもわずかにプロポフォール有利というのがこれまでの結果であるが、これが長期的な痛みに関しても関与していることが明らかとなった。乳癌手術での慢性痛の頻度が非常高いことから、麻酔科医としても麻酔薬の選択と有効な鎮痛法の検討は重要であろう。