周術期管理における区域麻酔の役割のつづき。
今日は麻酔管理と癌の関係。
近年、癌患者に対する周術期管理、特に麻酔との関係が注目されている。
癌、特に乳癌では手術時にはすでに全身に微少な転移が存在する可能性がある。
一方、手術は手術操作により、あるいは免疫抑制により癌の進行を促進する。免疫抑制の原因としては、痛み、麻薬、麻酔薬、低体温、輸血などがある。区域麻酔の使用は、痛みを抑制し、麻薬の使用量を減らすことで周術期の免疫抑制を防止し、癌の再発を抑制することが期待される。
麻酔薬と免疫系の関係については、
モルヒネは、NK細胞を抑制する。フェンタニルやレミフェンタニルまどの合成麻薬についてはまだよく分かっていない。
麻酔薬は、吸入麻酔薬は免疫抑制作用があるのに対してプロポフォールは免疫系にニュートラルあるいは軽度促進効果がある。
麻酔法と癌の再発で最も有名な研究はこちらである。
乳癌手術に対して、胸部傍脊椎ブロックの併用が再発に影響があるのかをレトロスペクティブに検討した。
3年後、胸部傍脊椎ブロックを併用した患者は、94%が再発しなかったのに対して、併用しなかった患者は77%に留まった。この研究をきっかけに区域麻酔と癌の再発が注目されるようになった。
その後の追試では、差がなかったとする結果や同様の結果がでており必ずしもすべてが区域麻酔の有用性を示すには至っていない。これは対象とする癌の種類、病期の統一、手術法、併用する麻酔など多くの要因が関わっているためと考えられる。
近年の一連の研究では、プロポフォールと胸部傍脊椎ブロックの併用は、セボフルランと麻薬の併用と比べて、NK細胞の活性が高く、癌細胞のアポトーシスを誘導しやすいなどの結果が得られている。今後の前向き研究での結果が待たれる。
また、局所麻酔薬そのものも癌細胞のアポトーシスを誘導することが報告されている。
このようい癌手術の麻酔法というのは現在のトピックである。現状、ベストと考えられるのはTIVA+区域麻酔である。