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TIVA再入門その⑩


TIVA再入門の10回目からは麻酔維持に移ります。麻酔維持に関してはあくまで私の私見です。

麻酔導入後は、プロポフォールの目標血中濃度をまずLORでの効果部位濃度+1に設定します。BISがない場合は基本的にこのままです。ただしBISを使って補正することができませんので時々覚醒遅延や、この人術中覚醒していたのではという症例を経験するかもしれません。
+1にするのはこれらの理由です。
1)LORでのプロポフォール効果部位濃度と覚醒時の効果部位濃度の差はプラスマイナス0.5程度だった(⑤参照)ので余裕をみてその2倍に設定する。
2)BISを使った症例でのデータから術中BISが50になるプロポフォール濃度はLOR+0.8であり、少し余裕をみて+1に設定する。
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この設定はあくまでも目安ですので実際にはBISを使って補正します。麻酔導入後はレミフェンタニルの投与速度を下げておいて(0.1μg/kg/min)から、設定したプロポフォール濃度での脳波を評価します。手術侵襲の加わらない状態でBISが40~50を目標に、必要があれば目標血中濃度を変更します。

プロポフォールによる脳波変化はこんな感じです。
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この症例では、1.2μg/mlで就眠しています。
1.5→2μg/mlでは同様に睡眠紡錘波がみられますが、2μg/mlの方が振幅が大きくこの辺りがこの症例の至適な鎮静レベルと判断できます。2.5μg/ml、3μg/mlでは徐々に紡錘波が不明瞭になり、デルタ波が基線の大きな変動として目立ってきます。3.5μg/mlではburst and suprresionが出現しますのでここでは過鎮静です。BISの数字だけではこの変化をとらえきれません。BISを付けているときは、生脳波波形やDSAによるスペクトル解析、平坦脳波の比率を示すBSRなどを参考にして総合的に判断する必要があります。
実際に、この症例の覚醒直前の波形を示します。
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就眠時と同じ1.2μg/mlでも少しノイズがみられるものの睡眠紡錘波もみられ、BISは40台です。しかし、この波形で患者は呼名に開眼しました。
このように脳波のみに頼ってプロポフォール濃度を下げると術中覚醒の危険もあります。麻酔維持期にはBIS値が低くてもLORの効果部位濃度以下には下げない(私は+0.5くらいにはしています)ことは重要です。TCI、BISともに過信は禁物ですが、両者をうまく使えばよいのです。
今後は、この領域(浅い鎮静~覚醒)がAEPでうまく評価できるのかがトピックになるでしょう。

ここでレミフェンタニルの投与速度を低下させていたのには理由があります。次回はレミフェンタニルのBISへの影響について説明します。
by yamorimo | 2010-03-29 23:53 | 電脳麻酔学入門
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